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気持ちが腐っている時に読むとクスッと笑える【ねにもつタイプ】レビュー

書籍レビュー
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嫌なことがあった時に読むと、“岸本流”の頭になって不幸な出来事が面白いネタとして消化されていくような気がする。
もうめちゃくちゃ面白かったです!

エッセイなんだけど、「え?これほんとに?」っていうような妄想のような話にいつの間にかすり替わっていっている。
あれ?どこからどこまで本当の話?と混乱してくるけど、そこが癖になる。

今回はそんな岸本佐知子さんの変なエッセイ(誉め言葉)がとても良かったので、紹介させていただきます。

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ちくま文庫から2010年1月に出版されています。
雑誌「ちくま」に掲載されていた文章を1冊にまとめられたものです。
ちなみに、岸本さんが根に持つタイプであるとかではないそうです。たぶん。

気持ちが腐っている時以外にも、寝る前にちょこちょこ読んでいました。
心の中で「なんでやねん!」って1ページに1回は突っ込みます。
すぐネガティブになって落ち込む私は、寝る前に読むといい気分で眠れるので続編もぜんぶ買ってきちゃいました。

出会ったきっかけ

鈴木祐さんが岸本佐知子さんと対談されていたんです。
私は岸本さんの著書をまだ拝読したことがなかったので、その対談には参加しなかったのですが、読んでなくても参加すれば良かったー!とものすごく後悔しております…。

私は20代の頃に本屋やブックオフなど本と関わる仕事をしていたので、岸本さんの本のタイトルにはすごく覚えがありました。
即行で買いに行きました。

あらすじの「奇想、妄想たくましく」や「呼んでも一ミクロンの役にも立たず、教養もいっさい増えない」と書かれているのを見て、どういう話か全然想像できなかったのですが、実際【ねにもつタイプ】を読み始めて大変腑に落ちました。

一ミクロンの役に立つかどうかは分かりませんが、もうこのエッセイをとてもとても気に入ってしまって、3分の1も読まないうちに残りの岸本さんのエッセイを全部買いました。
すごくオススメです!

【ネタバレ】心に残ったエピソード

注意事項

読み始めてしばらくは「面白い!」と思ったところに付箋を貼っていました。
ですが、気づいたら全ページに付箋を貼っていた…。
岸本さんのたくましい妄想も好きですが、ユニークな言い回しもとても好きです。

ちなみに3話目の『星人』で「様子がおかしいエッセイだな」と思い、8話目の『郵便局にて』で「あ、これ変だわ」と確信しました。(誉め言葉)

【ねにもつタイプ】は、途中から妄想パートに自然と入っていったり、「なんやそれ!」っていうオチがとても面白いので、新鮮な気持ちで読みたい方は以下の私の感想は飛ばしてください。

嫌なやつはこうやってやっつける!

郵便局にて』。
郵便局の窓口に並んでいたらある女性に割り込まれた。
なぜ相手はこんなことするのか?この場合、どんな対応するのか?とあれこれと思案しているうちに、山田フサヱ(仮)と脳内で激しいバトルが開始されるお話。

なんでやねん!って思いっきりツッコミました。
割り込んできた女性に何か言おうか言わずに帰るかで悩んでいたのに、いつのまにか脳内のコロッセウムで2人の死闘が始まっている。
目の前の現実から自然と妄想へと移行していくスムーズさ、素晴らしいです。

私も公共の場で嫌な目に遭った時に、「なぜ相手はこんなことするの?バカにされてるのか?注意するか?しないか?」と考えて、何も言わずに去った場合に後で自分が受けるダメージと今受けるダメージを天秤にかけます。

だけど、私が妄想するのはあくまでも現実世界で「相手に〇〇と言った場合は〇〇なる」といったもの。
それで、妄想の中で相手に怒り狂ったり落ち込んだりしている自分がいて、「こんな気持ちになる自分も嫌だ」と思ってまた落ち込む。

でも、岸本さんは目の前であったちょっと不快なことをファンタジーに昇華している。
しかも笑える。
こんなん、妄想してたら「自分、何考えてねんやろ」って自分で自分のことニヤニヤしてしまうわ。

そっか、私もああいう時に優等生ぶってネガティブに真面目に物事を捉えるのではなく、妄想してもいいんだ!って思いました。
今度からは一言言いたい相手を脳内のコロッセウムでもサーキットでも道場でも、自分の好きな場所に召喚して生死をかけた戦いを挑みたいです。

同じようなジャンルの話で『奥の小部屋』も好きです。
脳の迷路をいくつも抜けたうんと奥のほうにある薄暗い小部屋には、さまざまな武器がある。
某月某日、道を歩いていたらチリチリとしつこくベルを鳴らし続ける音にどなられた。
すると、脳の奥の小部屋が静かに開き、“こういう場合、使用するのは斬鉄剣だ”と。

この間わずか〇.五秒。すれ違いおわるまでに復讐は完了している。(p58)

カッコイイ!爆笑しました(笑)
武蔵か小次郎やん。

これからは、私もムカつくことがあったら脳の奥のほうにある小部屋の扉を静かに開いて、相手に相応しい武器を手にして復讐します。

怒りは無理に抑えようとせず、ユーモアで対抗すると後にイライラが残らないんだなと気づかされました。

あれとの戦い

戦記

××××年 六月某日 一九二二
外廊下を巡回中、敵(中)一体と遭遇、我が軍武器不携行に付、交戦には至らず。(p103)

なんだなんだ急に文章が難しくなったぞ、と思って読み進めていったら、家に出てほしくない敵(あれ)との戦記でした。
敵は大・中・小出てきます。
敵は我が軍に精神的被害を与え、PTSD発症者を多数出します。
(たしかにあれは深刻なPTSDです…)

「高射砲にて攻撃するも無念の弾切れ」は恐らくあのジェットでしょう。
そして、途中から導入された新型強力地雷はあのネバネバした家の形をしているようなものでしょう。

最後、また敵(幼)が発見されているので、戦いは尽きることなく現在も続いていることが分かります。

家に出たあれとのやり取りを戦記にするセンス。
私だったら「なんでまだおるねん!」とイライラして夜も眠れなくなるであろう出来事を、それと分かる固有名詞を使わずに暗喩させるユーモア。

私も嫌なことがあった時にイライラする代わりに、他人が読んで聞いて「なんやねんそれ!」ってクスッとできるような話に消化したい。
というか、私に足りないのはこういう想像力というかユーモアセンスなんだなと。

「G出て怖い!退治しても退治しても出てくるんだが!寝れん!!」と言うより、“まさに地獄よりの死者と呼ぶに相応しく、其のおぞましさに発狂者続出”といったような、気の利いた言い回しをしたいものです。

言葉選びや表現が豊かで勉強になります。
…いや、こういうとこやねん、たぶん。真面目やねん、自分。
もっとぶっ飛んでること言っても大丈夫かも?と自分の枠を取っ払う勇気をもらいました。

炭火焼の専門家、Q助さん

お隣りさん』の話もとても好きです。

年に一度しか行かないために国会図書館でいちいちとまどってしまう描写も面白いし、まずいカレーが一周回って実はけっこう美味しいと感じてしまうところもツボ。

資料コピーを申請すると30分ほど待たないといけないのだが、その間退屈しのぎに自分の前後の人はどんなものを書いているのか見るそうです。
岸本さんの1つ前の方は、“岸本Q助”さん。炭火焼の専門家です。

木酢液とは何に使うものか?酸っぱいのか?Q助さんはどんな人なのか?
と思いを馳せているうちに、またまた岸本ワールドが唐突に自然と広がっていく。

関西人ならきっと岸本さんの脳内にこう突っ込む。「誰やねん!Q助!」
(いや、れっきとした炭火焼の専門家さんなのですが、妄想の方のQ助にです)

誰もがするであろう、手持無沙汰で暇な時の脳内トリップ。
それを具体的に詳しく文字に起こすと、こんなに面白いのか!

電車に揺られている時とか読書の合間とか、授業でいつのまにか白昼夢を見ている時とか。
自分の頭の中を書き出してみると、案外面白いのかもしれない。
いや、岸本さんの脳内だから面白いのかもしれない。

私も小学生の時分から、両親の運転する車に乗っている時によく目の前にないことを妄想していました。
長野までスキーに行く時なんか片道7~8時間も掛かるので、乗り物酔いしやすい私は高速道路のオレンジのライトを延々と眺めながら「もし私が世界を救うヒーローだったら」とか「もし私が白雪姫だったら」とか妄想していたものです。
高速道路に均等に並んでいるあの上を忍者のように走ったら…とか。
大人になった今でも、なかなか寝れない夜に現実にありえないことを妄想して、なんとか寝ようと努力したりしています。

これからはこういう時に自分の妄想を覚えていて、あとでブログのネタにするのもいいかもしれません。
実は妄想するのもムダなことじゃないですね。
何の役にも立たない時間だと思っていましたが、だから自分はなんでも真面目に捉え過ぎて遊び心がない人間なんだ!って気づいたり。
今まで効率良く生きることを目指し過ぎたかなあ、なんて。

心の余裕や面白味のある人っていうのは、こういった心の隙間時間を持っているのかもしれません。
ただ妄想もボキャブラリーがないとただの寒い話になりそうなので、自分も表現力を磨かねばとも思わされました。

読んで感じたこと/気づき

日常であった嫌なことの話ばかりでなく、岸本さんは覚えているけれどまわりが覚えていないことや、幼少期の曖昧な記憶の「あれはなんだったんだろう」的な話もあります。

翻訳家をされているからか、語彙力がとても豊富で美しい。
岸本さんは生来観察眼が鋭く思考が深い方なのか、外国語を学ばれているから表現力が豊かで物事を観察する視点や切り口が鋭いのか。

また私の憧れの人が1人、増えてしまいました…!

とりあえず普通に』に、「どうやったら翻訳家になれますか?」という質問への回答をされていますが、岸本さんのユニークな考え方や視点は社会でのさまざまな経験でより研ぎ澄まされていったんだなと感じました。
しかし、そのさまざまな体験っていうのも何も特別なことではなくて、会社のいち社員としての“何気ない毎日”。

怖いお局様に無視されたこととか、フレンチ・カンカンを踊るためだけに大阪に行ったこととか。
それらを「あー嫌だな」とか「あの時は頑張った」と一言で済ますだけでなく、自分の血肉にされている。

翻訳家になるためには資格や試験があるわけではなく、「何となく」「ひょっこり」「うっかり」翻訳家になってしまう人ばかりだそうです。
そして、翻訳家になるためには特別な体験とか珍しい体験が必要なのではなく、“誰もが経験するであろう普通の日常”を体験することで、訳す時によりリアルな感情で活き活きと表現できる。

これは占い師やカウンセリングをしている私にも、よく分かります。

以前、とても悩んでいる時期がありました。
自分では悩みなど一切ない方が良いと思って苦しんでいたのですが、その時にある方に「悩むことでまたお客様の気持ちにより寄り添えるようになりますね」と仰っていただいたことがあります。

たしかに、そうなんです。
悩みがないと悩んでいる人の気持ちが分からない。
同じ悩みを体験しているからこそ、相手が何に苦しんでいて何を訴えたいのかがなんとなく想像できたりする。
同じ悩みでなくても、自分が悩んでいることで「苦しんでいる人の手助けをしたい!」という気持ちも強くなる。

催眠スクリプトを書く時も、メタファーが自分のよく知っているものだとスラスラと手触りや音がイメージできます。
あんまり自分が経験したことがないと、「うーん、本当にこれで合ってるのかなあ」と自信がなくてなかなか書き進められません。

幸せな経験だけでなく、自分にとって苦い経験もつらい経験も自分の糧にすることができます。
そして、経験したことを一過性のものとして終わらせるのではなく、一度自分の中でその体験を振り返ってみて、手でこねてみたり色合いを再度確かめてみたりしてもいいかもしれない。

あらすじに「一ミクロンの役にも立たず、教養もいっさい増えないこと請け合いです」と書かれていましたが、たしかに本編にはこういった皮肉な言葉(誉め言葉)での紹介はピッタリだと感じます。
そう書かれることで、読んだ時にやっぱり笑えるもの!

だけど、「たしかに何か知識が増えたわけでもないしな…」と思う反面、大きな心の豊かさをもらったのも間違いありません。
物事の新しい見方とか、一見何もないことをつぶさに観察することとか、ネガティブに隠された面白いネタだとか。

引きこもってないで、もっとたくさん体験して世界を面白おかしく見てみよう!と思わされました。
私の知らない日常がまだまだたくさんある予感がします。
自分の中の「知ってる、分かってる」をぶっ壊されて、当たり前の日常の中に潜むネタを探す新鮮な毎日を思い出させてくれました。

でも、難しいことを考えずもっと感覚で読んで「面白ェーー!!」って感動するだけでも十分心の栄養になるエッセイです。
もう大好き。

まとめ

スーパーで嫌なことがあったとか、友達となんか会話が上手くいかないとか、ほんの少し嫌なことがあって心がトゲトゲしている時に読むと、自分がイライラしているのがなんだか笑えてきます。
ちょっと悲しいことがあって落ち込んでいる時に本を開くと、「私だけが不幸なんじゃないのかも?」と平常心を取り戻せます。

岸本さんの妄想が良い意味でほんっとバカバカしくて、「まあ、こんなこともあるよね!」って笑い飛ばせる心の余裕を思い出します。

「笑う」って最強なんだなって感じました。
そもそも、どれだけ自分に「笑い」が足りなかったんだと。

一人暮らしの部屋で読んでましたが、普通に声出して何度も何度も笑いました!
電車の中で読むのは危険な本です。

エッセイをあんまり読まない方、ちょっとした空き時間に読むものが欲しい方にもオススメです。
一緒に岸本ワールドへ探検しに行きましょう!

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