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『感情をフラットに保ち、感情の波に飲み込まれないスクリプト』

催眠スクリプト
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ある小学校の校庭のグラウンドを、学校の正面玄関から僕は眺めていて、そのグラウンドには一人の背の高い人がグルグルグルグルともう大分前から何周も何周もグラウンドを走っている。

何かの罰で走っているのか僕には分からないけれど、その人の聞こえないはずの息遣いが自分のところまで聞こえてくるようなそんな感じがして、なんだか僕もこの人と一緒に何周も何周もグラウンドを走っている気分になってくるのです。

この人は、僕がいる正面玄関からは男か女かは分からなく、ただ背が高くスラッとしていてショートカットの短い髪に体操服を着ていて、僕のいる正面玄関は出たところの屋根が分厚く大きいので、薄暗くて涼しい。

何周も走っているその人がいる校庭は、その人が走っている間は誰も出て来なくて、その人だけが止まった時の中で動いているように見えます。

僕は涼しくて日の当たらない正面玄関からその様子を眺めているんだけど、もう何十分前からいるのだろう?僕のまわりにも誰ひとり来ないし、廊下から足音さえ聞こえてこないのです。

ただ、夏の蝉の声と、校舎の裏側にあるプールサイドから聞こえるはしゃぐ声が聞こえてきて、蒸し暑い夏に僕は一人制服を着たまま、何をするでもなく真昼間でも薄暗い正面玄関にぼーっと座って外を眺めているんだ。

僕は正面玄関が大好きで、だってここに長居して座っているやつなんで僕以外いないし、みんなここに来るときは早く家に帰りたくて仕方ないだろうから、誰もここで僕がぼーっと座っていても気にも留めなかったりする。
だから、とても居心地良いんだ。

ある時はグラウンドで野球をしている男子の集団がいて、とても真面目に守備を守ったり、ホームランを打って歓声を上げたりしていた。

そしてある時は、吹奏楽部が真夏の炎天下の下、トランペットやホルンなどを持って一生懸命吹いている姿も見た。

また、ある時は背の小さいランドセルを背負った1年生か2年生の子たちが、何事かをはしゃぎながら駆け回っている姿を見た。

僕は、誰かと混じって笑い合うより、ここでいろんな人が通り過ぎていって、僕を見ないその目を僕が代わりに観察して、そして外から見ているだけで「人の中に混ざっている」という感覚を味わっているのかもしれない。

そうやって、人の中のぬくもりを、誰かと笑い合わなくても、誰かに僕の話を理解してもらわなくても、僕は誰かの心臓の鼓動をイメージするだけでその人の体調や考えていることに同調することができるし、こうやって誰かの走っている姿を眺めているだけで相手の息遣いを想像することができる。

僕にとっては誰かの僕に関係ない話が、僕にとってのとても大事な情報源で、誰かの僕をきにしない目が、僕にとってはとても心地良いものなので、僕はきっとここで鼻歌を歌っていても誰にも気づかれない自信があるんだ。

そして人知れず人のことを観察しながら、僕は今日あった楽しいことやうれしいことを、僕自身の体験ではなくて、こうやって同調した“誰か”になり切って毎晩日記を書くんです。

“誰か”になり切って書く日記は僕にとってはリアルで、本当に起こったことのように感じるんだけど、夜に寝て何かの夢を見て、朝日が眩しくて起きた朝にはリセットされているから、昨日なり切った“誰か”を僕は今日はもう忘れてしまっているんだ。

日記を書く時は“誰か”の話し声を思い出して―――あとはたとえば今グラウンドで走っている人のことで日記を書くならば、その人の走るたびに前後に振る腕の幅や、吸う息吐く息とともに上下する肩を思い出し、そして彼の苦しい呼吸を想像した時に日記が書けるのです。

僕が自分の体を使って誰かの体験を経験することは僕にとってはまるで本の中の物語のようで、いつも存在感のない僕だからこそできる技だと言っても良いかもしれない。

そう、僕はどこにいても誰にも名前を呼ばれたりすることはないし、成績も目立って良かったり悪かったりするわけではないから、先生も僕のことを覚えていないかもしれないし、廊下で誰かとすれ違ったとしても、目が合ったり挨拶し合ったりすることはないんだ。

だけどそれがとても心地良くて、僕の存在に誰も気づかないから、僕はこうやってこっそりいろんな人の呼吸に肩を合わせてその人の体験を経験することができるし、その人の声をリアルに想像することで、まるで自分がその人になって人生を生きているような感覚にまでなってくるんです。

それが楽しくて面白いから、だから僕が主人公になると、誰かが僕を真似してくるかもしれないから、僕はこうやってそっと自分の楽しみを誰にも言わずに守っているのかもしれない。

僕は、もう何周したか分からないその人がまだ走り続けることを確信した時に、空が夕暮れに染まり始めていることに気づき、ようやく立ち上がって下駄箱から自分の靴を取り出した。

先程までプールに入っていた集団が出てきたようで、にぎやかな声とともにゴーグルや水泳帽を被った集団が階段を上っていくようだ。

空は、少し暗くなり始めると一気に夜になって星空に変わるので、僕はやや急いで靴を履いて、今日書く日記について考えながら、少し足早に校舎を後にする。

グラウンドで走っている人のペースは最初から今まで全く速度を変えることなく、一定のスピードで走っている。

僕にはそれが、平均よりやや速いスピードのように思えて、だからこの人を見ているとなんだか息が早くなっていくような感覚を感じるから、この人のことを長くは見ていられないので、チラッと視界に入れた後は校門を早く出てしまおうと自分の歩幅のペースをどんどん上げていく。

僕は、毎日違う人に呼吸を合わせてその人の人生を体験するので、二度、同じ人の人生は体験しないように気をつけている。

だから、きっと明日はもっと違った誰かの呼吸にペースを合わせながら、その人の人生と、僕の今まで知らなかった一面が見れるかもしれないと思うと、今日眠りについてまた朝起きた時の自分がとても楽しみなのです。

ひとーつ!爽やかな風が頭に流れてきます。
ふたーつ!体がだんだんと軽くなってきます。
みっつで!大きく深呼吸をして、頭がスッキリと目覚めます。

『感情をフラットに保ち、感情の波に飲み込まれないスクリプト』

タイトル:「校庭とゲタ箱」
解釈:感情の渦は校庭を何周も何周もグルグルまわることで、冷静になる。1人で走るグラウンド。

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