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【リクエスト】短編小説や催眠スクリプトを自在に書けるようになれるスクリプト

催眠スクリプト
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空を見上げると今にも雨が降ってきそうな灰色の天気の日に、ふと足元を見下ろしてみると、道路脇に小さな濃いピンクの花が咲いていたんです。

僕はその花に手を伸ばして「摘んで持って帰ろう」と思ったけれど、ハッとして手を止めると、僕の後ろをすごいスピードで車が通っていく音が聞こえました。

車のスピードで勢い良い風が背中を叩いて、危うくつんのめってこの小さな花を潰してしまいそうになったけれど、なんとか踏ん張って体勢を立て直せたことにほっとしました。

思わず「きれいだな」と思って摘んでしまいそうになったけれど、この花が活き活きと咲いているのは、アスファルトの下の地面があるからかもしれないと思ったので、僕はこの美しい花をなんとか目に焼き付けて帰ろうと思ったんです。

僕の背後からはガヤガヤと声が聞こえて誰かが通り過ぎていく気配がしたり、車がビュンビュンと通っていく風を感じたりします。

だけど僕は、それらの流れに逆らって立ち止まって、小さな花の美しさに目を奪われたまま、これをなんとか「自分のものにしたい」という欲が出てきます。

たとえば、「自分のものにする」なら、部屋の花瓶に飾って毎朝眺めるのか、ドライフラワーにしてお気に入りの手帳に貼るのか、好きな人にプレゼントとして渡しに行くのか。

でも、どれも自分にはピンと来なくて、だから「自分のものにしたい」と思ってもどんな方法が一番素敵なのかを考えると、背後を歩く人や車の音に自分の気持ちがかき消されていくような気がするのです。

さあ、僕は何を大切にしたんだろう?と考えて、人の歩く風や車の音にもなびかない力強いピンクの小さな花を眺めるのです。

もしかしたら、僕は僕にないものをこの花の中に見ていて、だからこの花に惹かれたのかもしれないとも思うのだけれど、僕が欲しいものは「あれ」なんだなあと、脳裏に浮かぶ「欲しいもの」とその花を見比べてみる。

そう、僕の「欲しいもの」は多分永遠に手に入らないのだけれど、今目の前にあるこの花は手を伸ばせばすぐに手に入る距離にあるから、だから「欲しい!」と思ってしまったのかな?なんて考えてみて、それでもしっくりこないから、「もっとよく考えないと」と思いながら自分の呼吸に注目して、自分の気持ちを深く探っていくのです。

なぜ僕は、この花を「きれい」だと思ったのか?そこにヒントが隠されているような気がして、今にも雨が降りそうな薄暗い空の下で、僕はじっと考え込むと、もしかしたら自分は答を求めていないのかもしれない…とそんなことに気づいてしまったのです。

なぜなら、今朝うちに配達された牛乳瓶の白くなだらかな曲線を描くあのフォルムを思い出した時に、あの形も「美しい!」と思ったから。

あの牛乳瓶の中に入っている牛乳の白さも美しいけれど、牛乳瓶の光沢や、手に持った時にひんやりとした感触、そして冷たい牛乳を一気に飲んだ時に喉が鳴るあの満たされた感覚を想像した時に、ポツポツと鼻に冷たい何かが当たる感触がした、その後一気にザーッと大粒の雨が地面を叩く音が聞こえてきました。

「ついに雨が降ってきてしまった!」と思って、僕は急いで頭の上に鞄をかかげて、近くの地下鉄の入り口に向かって走り出すと、すでにところどころにできた水溜まりを盛大に踏んでしまって、足先やズボンがぐっしょりと濡れる感覚がありました。

だけど、こんなところで立ち止まって落ち込んでいると、もっと濡れていくだけなので、とりあえず数百メートル先の地下鉄の入り口に向かって一直線に走っていくと、その間にどんどん雨足が強くなっていって、通り越していく車の姿が雨に遮られてぼんやりとしか見えなくなっていきます。

いよいよ車の音をかき消すくらいの大きな雨音が僕の体のあちこちや地面を叩いて、地下鉄の入り口に着いた頃には全身がぐっしょりと濡れていました。

「わあ、このまま電車に乗るのは、他の人に申し訳ないな」と思いながら外の様子を見ると、まだ夕方にもなっていないのに夜のように暗く影が落ちていて、「そういえば、今朝の牛乳の配達は家の中に入れたっけな?」と少しあの感覚が頭を過りました。

そうなんです、今朝は何かとバタバタしていて、「あ!牛乳が届いた!」と遠ざかっていくバイクの音で気づいていたけれど、天気予報を確認もせず慌てて家を出たものだから、外に出しっぱなしだったのか家の中に入れたのかが思い出せず、頭の中で何度も今朝の光景を反芻してみます。

そして、頭の中で我が家の木造の古い家を思い出しながら、家の中から誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてきたことも思い出しました。

そこで、「あ!そうか!届いた牛乳を家の中に入れようと思って、誰かに呼ばれて慌てて家の中に戻ったんだ!」と気づいて、あの声は誰だったのかをさらに思い出そうとします。

それは、母親の声だったのか、奥さんの声だったのか…、朝露で濡れた門扉から玄関までの小さな庭を小走りに走っていく時に、郵便受けからはみ出している新聞紙が目に入ってきて、こちらもやはり朝露でしっとりと濡れていました。

それから、玄関のドアをガラガラと横に引いて開けると、「呼んだ?」と大きな声で玄関から家の中に向かって声を掛けてみます。

すると、静かだった家の中の空気が自分の声で動いたような気がしたけれど、何の声も返ってこなくて、ただ家の奥の方のキッチンから、忙しない足音が聞こえてきたので、「ああ、忙しいんだな」と思ってそれ以上は何も言わずに黙って誰も返事をしない家の中へとそっと上がったのです。

これは自分にとっては日常で、僕も誰かに興味を示さないけれど、誰かが僕に興味を示すとも思っていなかったから、だから今までは誰にも干渉せず干渉されずに過ごしてきたけれど、あの小さなピンクの花を道路脇に見つけた時に「これだ!」というときめきに似た感覚が自分の中に広がっていくのを感じました。

そう、多くの車が行き交うあの道路脇で、あそこだけ世界が違って輝いて見えたけれど、他の人から見えたら何ともない光景だったのかもしれない…と、立ち止まった僕の後ろを世間話をしながら歩いて行く人々の声を聞きながら、そう思うのです。

もし、あの花が僕の人生の何かを変えてくれるような何かのキッカケだったとしたら、僕が毎朝何気なく飲んでいるあの牛乳瓶も、もしかしたら僕が知らないだけで、知らない間に僕の何かを変えてくれたのかもしれないし、変えてくれてくれるのかもしれないと、そんなことを思いながら、まだやまない灰色の空と激しい雨の音を聞きながら、しばらく地下鉄の駅の入り口で雨が止むのを待つのです。

ひとつ、爽やかな空気が頭に流れていきます。
ふたつ、身体がだんだん軽くなっていきます。
みっつ、大きく深呼吸をして、頭がすっきりと目覚めます。

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