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その昔、小学生の頃に、理科の実験でスライムを作ったのですが、メスシリンダーの中に入ったスライムは青く透き通っていて、とても美しかったのです。

そうして、そのメスシリンダーに入ったスライムを、同級生のみんながキャーキャー言いながら眺めています。

すると、スライムになりかけているその物体の中に、いくつもの細かな気泡を発見して、まるで宝石みたいでうっとりとした気分になってきました。

そんな時に、クラスで一番のやんちゃな男子が、教室の端っこで紙飛行機を作って、大きな声ではしゃぎながら、紙飛行機を教室の天井へと大きく飛ばします。

そうしたら、その紙飛行機はふわっと空中に浮いて、スーッと天井スレスレを飛ぶと、ポトッと聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな音を立てて、床に落ちました。

そんな小さな音だったから、クラスの誰も紙飛行機が床に落ちたことに気がつかなくて、みんなはメスシリンダーの中の青いスライムに歓声をあげているので、男の子はちょっと不貞腐れたようにムスッとしながら、床に落ちた真っ白い紙飛行機を拾います。

きっと男の子は、自分に注目してもらいたくて、わざとみんなと違うことをして「俺はこんなに楽しいんだ!」と見せつけたかったのですが、みんなの興味は青いスライムに釘付けなので、男の子は仕方なく、床に落ちた紙飛行機についた、申し訳程度の誇りを手で払って、自分で作った立派な紙飛行機の出来栄えをいろんな角度から確認してみます。

「僕の紙飛行機だって、スライムに負けてないんだ!」とみんなに自慢したいけれど、誰も男の子の方を気にしていないので、男の子はみんなのはしゃぐ声を背に聞きながら、静かに教室のドアへと歩いていきます。

そんな男の子のことを誰一人気づいていないので、男の子は音もなくガラガラと教室の扉を開けて、廊下に出ると、冷たい空気にぶるっと身を震わせます。

「廊下のどこかの窓が開いているのだろうか?」とキョロキョロと廊下を見渡してみると、廊下の窓は全開になっていて、そこから冷たく強い風が校舎に入り込んでいます。

「誰だ!まだこんな肌寒い日に、廊下の窓を全開にしたやつは!」と、男の子は少し腹立たしく思いながら窓に近づいてみると、秋晴れの清々しい空に、ある鳥の群がV字を作って南へと飛んでいくのが見えたので、ゴオゴオと風が鳴りながら入ってくる窓から顔を出して、鳥が飛んでいく校舎の向こう側へと身を乗り出してその群を追って見てみました。

すると、校舎の中にいるとまったく静かで気づかなかったのですが、窓から顔を出した時に、近くの道路を走るたくさんの車の音や、何かざわざわという音が一斉に聞こえてきて、「学校の中とは別世界なんだなあ」という感覚になりました。

僕は、授業が終わらないと校舎を出られないけれど、昼間の校舎の外では、こんなにもたくさんの人が活動していて、いろんな音が鳴っているんだなと思うと、男の子は「こんなちっぽけな教室から飛び出して、もっと多くの人と関わりたい!」と、なんだか自分の胸がドキドキワクワクするの感じて、遠くの景色を見ると、まだ紅葉する前の青い山が見えました。

その山の麓には、白いもやのような霧がかかっているのが見えたので、「あ、もうすぐ雨が降るのかもしれない」と思うと同時に、ポツポツと道路に染みができていって、男の子の鼻先にも、冷たいポツポツした雨が当たったなあと思った瞬間、突然ザーッと大きな音を立てて大雨が世界を濡らします。

「あれ?今日の天気予報は雨だったかな?」と思って、もう一度遠くの青い山を見ると晴れているので、「なんだ、狐の嫁入りか!」と男の子はこれまた、少しワクワクしてきたのです。

なぜなら、男の子は「普通じゃないもの」が好きだったので、いつも通りじゃない非日常の体験をしてみたい!と常日頃思っていて、いつもその機会を待っているから、いざ何かが起こった時に、その奇跡を見逃さないようにと、キラキラした目で今、目の前で起こっている現象を目に焼き付けようと必死に身を乗り出します。

そうなると、男の子には誰の声も届かなくなるので、ただひたすら、男の子の興味関心が薄れるまでみんなはその時を待たないといけないので、男の子はどんどん自分の世界にのめり込んでいくのだけれど、ある美しい鐘の音が聞こえた気がして、彼は我に返ります。

それは、どこかで聞いたことがあるような懐かしい音であり、でも、はじめて聞くようなこの世のものではない音色だとも感じます。

そうして、男の子はその美しい鐘の音がどこから聞こえてくるのかを知りたくなって、鐘の音にじっと耳を澄ますと、目の前に虹色の透明なガラスでできた階段が、空へ空へと続いていることに気がつきました。

いつの間にか、男の子のまわりには薄い虹色のふわふわの雲があって、「ここは天国かな?」と不思議に思いながら、一段一段、ゆっくりと階段をのぼっていくと、その虹色のキャンディーのような階段は、コツ…コツ…と可愛らしい音を立てるので、男の子は楽しくなってきて、どんどん登っていくペースが上がっていきます。

さらにぺースを挙げてどんどん登っていくと、男の子の顔は笑顔なんだけど、ぜぇ、ぜぇ、と少し息切れしてきたので、ちょっとだけペースを落として、相変わらず虹色のわたあめのような雲に囲まれた風景を見回しながら登っていくと、まるで自分がRPGの主人公になったような気がしてくるのです。

「この前クリアしたダンジョンに、こんな場所があった!」と思い出して、自分は夢でも見ているのだろうか?と思ってふと足元に視線を落とすと、そこには小さな小さな、金色に輝く鍵が落ちていました。

「ああ!危ない!今、ここでもし俺が目線を下に向けなかったら、気づかなかった!」と、かすかに足元で「チャリン」という音が聞こえたような気がして、ふと下を見たラッキーな自分にグッジョブ!という気持ちと「間一髪!」という焦る気持ちの両方から、その小さな鍵を手に取ると、ひんやりと冷たくて、その鍵を手にした瞬間、今までの彼の人生が走馬灯のように脳内を駆け巡っていきました。

男の子の人生は、まだ大人たちよりはずいぶん短いですが、男の子が生まれてからこれまでの間に、両親との思い出やクラスの友達との思い出、はじめて作ったプラモデル、一人で夕方に近所を旅したあの日のこと…さまざまな記憶が思い出されて、男の子はちょっと寂しくなってきたような、なんとも言えない気持ちになりました。

ツーッと一筋、頬を伝わるある感覚を感じながら、男の子は小さな鍵をギュッと握りしめて、「自分は絶対にもうこの鍵を落とさないぞ!」と強く決心したのは、この鍵が何の鍵か知っていたのか知らなかったのか。

男の子は実際、この鍵がどこの鍵か「知らない!」と思ったのは、この小さい鍵が、まるで女の子が変身ごっこで使うような魔法使いの鍵のようだったから、だから「俺のじゃない!」と思ったのです。

でも、この鍵を片手で握り締めた時に、頭の中に駆け巡っていくさまざまな思い出は、男の子が確かに知っているもので「僕のものだ」と思うから、そこには男の子の名前を呼ぶ両親の姿や、男の子の家まで遊びに誘いに来てくれた友達の明るい笑顔が見えてくるのです。

「僕は、愛されていないと思っていた」と、男の子はふと、静かにそんなことを思うと、一気に嗚咽が出て、何が悲しいのかうれしいのか分からないけれど、涙が止まらなくなっていきます。

「僕は、たしかにみんなに愛されていた」と、その小さな金色の鍵を握りながら、男の子は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、自分の体温であたたかくなっていく鍵の感触を掌の中に感じます。

虹色のキャンディーのような階段の真ん中で、男の子はただひたすら、声を上げて泣いていますが、そこには男の子一人しかいないので、薄い虹色のわたがしのような雲が、男の子を照らすように、やわらかくその空間を包み込んでいるように見えます。

男の子は自分の嗚咽を聞きながら、呼吸を整えようとしますが、「そんな必要あるかな?」と思って、ただ泣きたいだけ泣こうと思ったのです。

静かな空間に男の子の泣く声だけが響いて、そこには誰も邪魔しない静寂があるので、男の子は何のことも気にせずに、気が済むまでずっと泣いていられる安心感を感じています。

すると、涙した分だけ自分が小さくしぼんでいくような感覚があって、男の子はだんだんと泣き止んできました。

まるで不思議の国のアリスにでもなったかのように、男の子の体はしゅるしゅると小さくなっていって、やがて親指姫ぐらいの大きさになりました。

そうしたら、大きな芋の葉の向こうに、ピンク色のドレスを着た女の子を見つけると、女の子はすぐに身を翻して逃げて行ったので、男の子は「待て!」と言って追いかけます。

小さくなった男の子から見ると、芋の葉っぱはとても大きくて、その芋の葉の間をすり抜けながら、女の子の後ろ姿を息を切らしながら追っていきます。

足元は、雨が降った後のようなやわらかい土なので、何度か転びそうになりましたが、それでも女の子を追いかけることを諦めません。

芋の葉の森は、まだまだずっと向こうまで続いていて、女の子の体力はまったく途切れることなく、一定のペースで芋の葉の間を走って逃げていきます。

そうすると、男の子が「そろそろ限界だなあ」と思った時に、いきなり芋の葉が途切れて、目の前に崖が現れたので、「危ない!」と大きな声を出して急ブレーキをかけました。

すんでのところで崖から落ちずに済みましたが、眼下を見下ろすと、そこには森が遠くの方まで続いているのが見えて「うわあ、すごい!」と、大自然の雄大さに感動する自分がいました。

先程まで追っていた女の子の姿はもうすでにどこにもなく、男の子はただただ目の前に広がる大自然を眺めながら、「もし、自分が恐竜が生きていた時代にワープしたら、こんな光景だったのかもしれない!」とまたワクワクしてきました。

崖は高い位置にあるのですが、風の唸りは少なく、木の葉の音がかすかに聞こえるだけです。

今まで走ってきたので、自分の息が整うのを感じながら、どこまでも続く森と、森の向こうに見える切り立った崖のような山肌をすみずみまで観察していると、「これから何が始まるんだろう!」と、まだ分からない未来が、自分の望んでいるものを持ってきてくれるような、そんな感覚になってきます。

ひとつ、爽やかな空気が頭に流れてきます。
ふたつ、身体がだんだん軽くなってきます。
みっつ、大きく深呼吸をして、頭がスッキリと目覚めます。

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