意識で考えて「あっちの願いを叶えたい」と思ったんだけど、そうすると今度はこっちの願いが叶わなくなったりして、なかなか頭で考えている通りに上手いことバランスって取れないんだなあと思っていました。
だから、無意識に委ねられたらいいんだけれど、無意識に委ねるためにハンドルを手放してみるのが怖くって、そんな時に頭の中にあるイメージが浮かんできたんです。
そして、それは濃紺の宇宙に深い紫色の銀河で、その中心が渦を巻いて白く銀色に輝いています。
そして、その銀河に私は旅行に行きたいと思ったんだけれど、どうやってそこまで到達したら分からないので、ネットでいろいろ調べてみようと思った時に、「宇宙の音」というのを発見したんです。
そして、その「宇宙の音」というのは、地下鉄の構内に吹いてくる風の音のようにも聞こえるし、電車が駅に停車するために減速する時のあの音にも聞こえたりして、宇宙にも地球と同じ音があるんだ!と思うと、なんだかあの銀河が一気に近づいたような気がして、私は地下鉄の風を肌に感じるのです。
それから、私は地下鉄で電車を待っていたことを思い出したのですが、夜10時を過ぎたのに構内にはたくさんの人が前や後ろから歩いています。
そうやって、電気が灯って明るくたくさんの人が歩いている構内を私もみんなと同じように歩いていると、夜なのになんだか昼のような気がしてきて、地下鉄から出たら外には太陽が照っているんじゃないかと思うのですが、そんな時に電車が大きな音を響かせながら駅に停車しようとしたんです。
そうすると、駅で電車を待っていたたくさんの人が吸い込まれるように入っていくので、私も人々の流れに従って彼らと同じように吸い込まれるように電車の中に入っていくと、そこはもう人でギュウギュウで、隣の人の肌や鞄に自分の腕が当たるような距離感だったんです。
しかし、そんな電車内の事情はおかまいなしに、電車は発車していくと、タタン・タタンと一定のリズムを刻みながら、だんだんと速度が上がっていって、手持無沙汰な私はスマホを取り出してSNSを眺めることにしたんです。
そして、電車が揺れるたびに車内の人々の体もバランスを崩して同じ方向に傾いて、またしばらく経ったらまっすぐ立ってを繰り返していたのですが、電車の揺れる音を注意深く聞いていると、どんな揺れ方をするのかなんとなく分かってきた気がしたんです。
なので、電車のガタタンという音が大きくなった時には右に傾き、タタタンと小さくなった時は左に体を傾けてやり過ごすと、隣の人に当たったりしないことが分かったので、私は足の裏の感覚に集中しながら揺れる音に耳を傾けてました。
それから、電車の揺れに慣れた頃に、あの紫色と濃紺の渦巻き銀河が頭の中に思い出されて、「あそこまで旅行に行くなら、やっぱりロケットかなあ。何光年かかるんだろう?」なんてことをぼんやりと考えるんです。
そして、同時にあの「宇宙の音」のことも思い出されて、そういえばあの宇宙の音は、深い夜の森の中で聞こえる音のようでもあるし、深夜に庭に出た時の犬の遠吠えにも似ているかもしれない、とそんなことを思うんです。
そうやって、銀河のことや「宇宙の音」のことを考えていると、やがて電車が次の駅に停車して、人々がまた吸い込まれるようにホームへ降りていくと、一気に車内の人数が減って、電車内の温度も若干下がったような気がします。
そして、また次の駅へと出発して、何駅か過ぎた後に私の降りる駅がきたので、人々と同じように吸い込まれるようにホームへ降りて、地下鉄から地上へ出ると、そこはやっぱり夜で、空には三日月が薄く輝いているんです。
それから、私の家は駅から徒歩数分のところなので、「もうすぐ家だ!」と思うと俄然元気が出てきて、コンビニにも寄らずにまっすぐ帰ろう!と思って、まだまだ車通りの多い大通りに沿って軽い足取りで歩いていく間に、信号機の音や通り過ぎていく車の中からかすかに聞こえる音楽などいろんな音が耳に入ってきます。
そうして、4階の自分のマンションにたどり着くと、鞄から鍵を取り出して開けて、「あ~!やっと帰ってきた!」と一気に全身の力が抜けて、ソファにボフッと身を任せます。
そして、なんとなくテレビのリモコンを手に取ると電源を入れて、別に見ようとも思っていないテレビを点けっぱなしにしながらソファに顔をうずめると、今日の一日を頭の中で振り返っていきます。
そうすると、今日一日でどれだけ自分ががんばっていろんなことをできたんだなあというのが見えてきたので、そんな自分に満足して、テレビの中のバラエティー番組の声をBGMにしながら洗面所へと向かいます。
そうやって、スーツを着たままとりあえず歯磨きを先に終わらせてしまおうと思って、点けっぱなしのテレビをなんとなくぼんやり見ながら歯を磨いていると、歯茎に当たる歯ブラシの歯が気持ち良いんです。
それから、口をゆすいで歯磨きを終えてからリビングに戻ると、テレビにはいつの間にか銀河系が映し出されていて、私が電車の中で思い描いていた濃紺と深い紫色の渦巻き銀河が、声の良いナレーションとともにそこにあるのです。
だから、私は「銀河をもっと見ていたい」と思ったので、低い落ち着いた男性の声のナレーションと、移り変わっていくさまざまな銀河の映像にうっとりと見入っていきます。
そうして、寝るまでの時間をテレビに映し出される赤や白や青のレンズ状銀河や楕円銀河などさまざまな形の銀河を眺めながら、あたたかい飲み物をゆっくり口に運んでは、やわらかい布地のパジャマとソファの感覚が眠りを誘うまで待つのです。
ひとつ、爽やかな空気が頭に流れていきます。
ふたつ、身体がだんだんと軽くなっていきます。
みっつ、大きく深呼吸をして頭がすっきりと目覚めます。
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