白いもふもふした犬が、赤い首輪をしていて、女の子と一緒に散歩に出かけています。
女の子はとてもご機嫌で、鼻歌を歌いながらスキップで歩いていて、犬はその後ろをちょこちょこと短い足でくっついていきます。
犬がふんふんと鼻を鳴らすと、あたりの新鮮な空気が肺に入ってきて、なんとも爽やかな心地になるのです。
ある時、犬は、他の家のお家の庭に、赤い縄跳びが無造作に置かれているのを発見しました。
だけど、犬は「縄跳びの縄」を知らなかったので、赤くて長いロープのような物体を見た時に「自分の首輪と似てるなあ」と思いました。
そして、いつも散歩に連れて行ってくれる女の子が歌っている鼻歌を、テレビの中から聞いた時に、「自分が人間だったら、どんな感覚だっただろう」と考えてみたのです。
もし、自分が人間だったら、赤や緑や青のクレヨンを真っ白い画用紙に書きなぐって、虹を書いたり、住んでいる家の絵を描いたり、女の子を描いたりして、自分が大切なものを形に残してみよう！と思うのです。
だけど、今の犬の手はクレヨンを握れるような「指」がないので、じゃあ今の自分ならクレヨンをてのひらで潰して掌にこすりつけて、画用紙にベタッと掌をくっつけると、色を描けるのではないか？と閃きました。
犬は、いつも女の子が鼻歌を歌っていることを知っていて、散歩の時以外なら料理をしている時やお風呂に入っている時に、ふんふん頭上からご機嫌な声が聞こえてくるのです。
犬は、そんな女の子が大好きでした。
ただ世話をしてくれるから好きっていうだけじゃなくて、女の子の鼻歌や女の子の体温はあったかくて、そばにいると安心して眠くなっていくのです。
ある日、大きな台風が犬と女の子が住んでいる家を襲って、窓ガラスがガタガタ揺れて、窓の外は灰色の分厚い雲と、横殴りの大粒の雨が窓ガラスを叩きます。
犬にとっては初めて見る台風だったので、怖くて女の子の膝の上で丸くなっていたのですが、女の子は台風のことを何にも気にしていないようで、いつものように「ふんふん」と鼻歌を歌いながらテレビを見ていました。
テレビからはバラエティ番組の笑い声や司会者の張りのある明るい声が聞こえてきますが、犬は窓の外の風が大きくうねる音が聞こえてくるたびに、体を震わしながら女の子にしがみつきます。
女の子の膝の上はあったかくて、「何にも心配することないよ」と言われているような気がしてくるから、不思議です。
やがて嵐が去って、太陽が雲の切れ間から顔を出し、窓の外が明るくなってきました。
女の子はテレビを切って立ち上がり、カーテンをシャッと引くと、窓を大きく開けました。
「今日はいい天気だね！」と言う女の子は、犬にとっては変わらない日常で、先ほどまでの嵐を「どうしてあんなに恐れていたんだろう」と、明るい陽射しを窓越しに浴びながら、女の子とともに窓の外を眺めるのです。
ひとつ！爽やかな空気が頭に流れてきます。
ふたつ！身体がだんだん軽くなってきます。
みっつ！大きく深呼吸をして、頭がスッキリと目覚めます。＾
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