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「人生、何も上手く行ってないなあ」と感じる時に読む催眠スクリプト

催眠スクリプト
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ある秋の日に、一人の女性が障子の向こうに見えました。

その女性は、黄色やオレンジや赤色が重なった美しい色の着物を着ており、正座をして座っている様子が襖の向こうに見えるのですが、静かにお茶を湯呑の注いでいる音が聞こえてくる。

あたりはあたたかいような少し肌寒いような、秋独特の空気が揺らいでいて、庭の木からは紅葉した葉が時折はらりと地面へと落ちていく。

女性は、急須をとても大切に両手で扱いながら、熱いお茶を湯呑に注いでいる。

その音がとても懐かしく感じるのは、私が小さい頃に何度も聞いた音だったからかもしれません。

その音は、まるで私への愛情を注いでくれているように優しく響くから、私はお茶を注ぐあの人の細く長い指を眺めているのが大好きだったんです。

たとえば、私が大人になってから自分で自分にお茶を注いでも、ある時は出勤前に急いで注いでいたから味が分からなかったりするし、またある時は映画を観ながら注いで飲んでいると、いつの間にかそのお茶を飲み干してしまっているから、何度目かにマグカップの縁を口につけた時に「あれ?もうなくなってる!」と驚いて、一滴も残っていないマグカップの底を眺めるのです。

「また注がなきゃいけないじゃない!」と思いながら台所に立った時、あの障子の前でお茶を注ぐ女性が私の脳裏に浮かんできて、あの女性がコポコポと湯呑のお茶を注ぐ音を目を閉じて思い出してみると、心がスッと落ち着くような感覚があるのです。

そう、あの女性の名前を私は知らないけれど、何度も何度も思い出すあの秋の日の襖とその向こうにある紅葉した庭は、まだ私が自由に遊んでいた子供の頃のことを思い出させてくれるのです。

あの時の私は、鞠を蹴ったり、かくれんぼをしたり、泥でお城を作って遊んでいたのだけれど、ある雨の日に全身真っ黒の男性が目の前に現れたのです。

その男性は、乗っていた大きな黒いバイクから降りて、砂場にいる私に近づいてきたんだけれど、その男性はヘルメットを被っていたから私には誰か分からなかったので、私は黙ってその男性が近づいてくる足音を聞いていたのです。

すると、私がいる1m手前で足を止めたその黒い男性は、私に右手を差し出して「これをあげる」と言ってきたのでその掌をのぞきこんでみると、ピンクの小さな貝殻が黒い手袋の上に乗っているのを見つけて、「わあ!かわいい!」と思わず目を輝かせて黒い男の人のヘルメットのヘルメットの向こうの顔を見つめました。

でも、ヘルメットの向こうの男の人の顔はまったく見えないので、男の人が今どんな表情をしているか読めない私は、男の人の顔ではなくそのピンクの小さな貝殻に視線を戻しました。

その小さな貝殻は、黒い男の人の手の上にちょこんと小さく乗っているので、ふっと息を吹きかけたら飛んでいってしまいそうな気がして、私は息を止めてじっと貝殻を見つめます。

すると黒い男の人はもう片方の手で優しく私の頭を撫でて立ち上がり、ザッザッザッと砂場の砂を踏みしめながら、私に背を向けてバイクの方に戻っていきます。

私の小さな掌には、男の人に渡された小さなピンクの貝殻が握られていて、「耳をくっつけたら海の音が本当に聞こえるのかな?」とそっと耳元に近づけてみましたが、波の音が聞こえるような聞こえないような気がしてよく分からなかったので、私はまた砂のお城を作ることに専念して、砂を水に濡らして泥を作り、その冷たくて重い感触を楽しむのです。

私は、いつも1人で遊んでいたかもしれませんが、こうやって黒い男の人が私の元に来てくれたり、遊びから帰ったら障子の向こうにいる着物の女性が私にお茶を入れてくれたりするので、私はいつも安心して砂場で砂のお城を作るのことに集中できます。

砂のお城は、乾いてしまうとボロボロと端から崩れてしまうので、私はバケツに水を満タンに入れて砂場に持っていっていたのだけれど、濡れた砂のじゃりじゃりと擦れ合う音を聞いていると、お城を作ることを忘れてずっと触っていたいなあと思います。

じゃりじゃりと音を立てる砂は、いつか行った砂浜の暑さを思い出させてくれたり、雨の日に蛙を追いかえて田んぼの中に入ったあの時のことを思い出したりするので、触っている間にいろんなことを思い出して、私は砂のお城を作ることを忘れていくのです。

すると、砂のお城はパラパラと乾いてきて、ポロポロと形が崩れていくのですが、私は「また作ったらいいか~」と思って、崩れていく砂のお城をただ眺めます。

そうこうしている内に雨が降ってきたので、慌ててバケツを持って家に帰ると、雨の日でも晴れの日でもあの女性は縁側の障子の前でお茶を入れているので、私は「ただいま!」と声をかけると女性はにっこりと笑いかけてくれます。

そして、バタバタと廊下を走って、濡れた体を拭くためにお風呂場に行ってタオルを手に取った時に、あの黒い男の人にもらったピンクの貝殻のことを思い出してポケットから取り出してみると、それは昼間に見た時のように、白く淡く光っているように見えるので、私の心はなんだかワクワクしてきます。

キラキラ輝くものが大好きなので、私は大切にその貝殻をポッケに入れて、風呂場から出ると、あの女性はゆっくりと湯呑に口をつけてお茶を飲んでいるとこでした。

湯呑からは白い湯気が上っていて、「私にも一杯ちょうだい」というと、女性は急須から湯呑にお茶を注いでくれるので、私はその音に耳を傾けます。

それから、湯呑をゆっくりと口へ運んでいくと「あつ!」とお茶の熱さに少し驚いたけれど、お茶の香りと熱さで胸の芯まであたたかくなっていきます。

女性と二人、縁側に座りながら障子の向こうの雨の庭を眺めていると、静かに降る雨の音とにおいがより立体的に私の五感に訴えかけてきます。

庭にある石は、雨に打たれてどんどん色が濃くなっていって、庭にある木の葉に雨が当たるから、木の葉が大きく鳴る音が聞こえて、でも、私と女性は何も語らない。

熱いお茶でてのひらをあたためながら、2人で正座して眺める雨の庭は、きっと「いつか」の日にまた思い出すんだろうんなあと思うと、この何も語らない時間は私にとってかけがえのない一瞬のような気がしてくるのです。

女性は、じっと雨の庭を見つめているので、私も女性と同じようにじっと雨の庭を見つめていると、1匹の蛙がピョンと跳ねました。

雨は、どんどん勢いを増して、夜まで止まないだろうなあと思うと、「この後の時間は家で何をしようか?」と考え始めながら、より一層強くなっていく雨音を聞きます。

雨の音を聞きながら、湯呑から立ち上がる湯気が頬に当たる感覚が、私の心を撫でるように、雨の音で少し冷えてきた肌の表面を芯からあたためてくれるような感覚が広がっていきます。

「明日は晴れたらいいなあ」と思うのは、晴れたら行きたいところがあるから。

でも、隣に座っている女性は、雨の日でも晴れの日でも、同じようにこの障子の向こうで熱いお茶を飲んでいるのかもしれないと思うと、私はどこか安心する感覚があるのです。

私がいつ「ただいま!」と言って帰ってきても、女性は変わらずこの場所で正座をしているので、だから私は、安心して外に遊びに行くことができます。

この場所にいる鮮やかな着物の女性を、私はいつか「未来の自分」と重ねて見ているから、この変わらない毎日の中で歳を取って落ち着いていく自分がどこかなつかしく感じられるのです。

あの時に見ていたあの女性は、「私だったんだ」とそう思うと、今の私は自由に外に遊びに行って、泥んこになって帰ってきて、バタバタと廊下を走って正座をしている女性の隣に座ります。

女性が入れたお茶を飲んで、2人の間に流れる沈黙は、他の誰よりも多くのことを語り、いつの日か思い出した時に「あの沈黙が今の私を作った」と思えるはずなんです。

だから私は、雨の日はいつもあの女性のことを思い出して、熱いお茶を一口ずつゆっくり飲みながら、時間を心に刻んでいきます。

時間は、私にとって「なくなっていくもの」だったけれど、私の動作がゆっくりになると時もゆっくり刻まれるような気がして、マグカップを口に近づけるその仕草をゆっくり、ゆっくりとするのです。

ゆっくり、ゆっくりと過ごしているうちに、私の日々の流れもゆっくり、ゆっくりと流れていくような気がして、そのうち、映画のコマがスローモーションに見えたり、聴いている音楽の一音一音がはっきりと聞こえてきたり、いつもよりもいろんなものの細部が細かくより立体的に私の中に入り込んでくる気がしたので、そうするとどんどん私の聴覚やその他の感覚が研ぎ澄まされていくのです。

スローモーションの音や映像の中をすごい勢いの向かい風が吹いてきて、私は大きく目を見開いてその風が吹いてくるほうを見つめると、立方体や八方体などさまざまな角ばった立体が私に向かって飛んできて、そして私を通り越して後ろの方へと流れていく様子が見えて、私は一瞬「あ!ぶつかる!」と思ったけれど、目を閉じずにそれらの流れを眺めていると、「自分はこんな強い風の中でも立っていられるんだ!」と楽しくなってきました。

立方体が私にぶつからないのは、彼らが私を攻撃しようとしているわけではないからで、私は彼らの間をぬって、強い風の中、空中に浮かんでいます。

まるで電脳世界に入り込んだような世界で、私はたくさんの図形に囲まれて浮いているのだけれど、着地点がどこか分からなかったのであたりを見ましてみようとしたら、風が、さらに強く私に当たってきて、その風の大きな音で目を閉じたのです。

再び目を開けたら、そこは昔いた砂場の風景で、大人になった私は、子供の頃は大きく広く見えていた砂場に立っていました。

空を見上げると満天の星が輝いていましたが、今が何月何日の何時か分からないので、満天の星からすぐに目をそらして、足元の砂場を見ると、あの時黒い男の人にもらったピンクの小さな貝殻が落ちていました。

「ラッキー!こんなとこで見つけた!」と思って拾って手に取った時、私の頬を熱いものが伝う感覚があって、恥ずかしくなっていると、遠くから遠吠えをしている犬の声が聞こえてきて現実に引き戻されます。

私は何に涙したんだろう?と考えそうになったけれど、今は考えずにピンクの貝殻をそっとポケットに入れて、ポケットの中で貝殻が潰れてしまわないようにと、そっとポケットの外から貝殻の厚みを感じます。

夜は、まだ始まったばかりのようで、空にはオレンジ色の月が輝いています。

犬の遠吠えが何度か聞こえた後、私は空に手をかざして叫んでみました。

「私はここにいる!」

誰の返事もないことを確認してから、私はそっと、この夜の砂場を後にするのです。

 

ひとつ、爽やかな空気が頭に流れてきます!
ふたつ、身体がだんだんと軽くなっていきます!
みっつ、大きく深呼吸をして!頭がすっきりと目覚めます!

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